1 何ら成果なき六カ国協議
8月27日から北京で北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議が行われたが、結果は何の成果もなく全くの徒労に終わった。言う迄もないが今回協議には4月に行われた米朝中3カ国協議に加え新たにロシア、日韓の3カ国が加わったが、実質は飽く迄米朝2国間協議であった。
昨年10月の米朝協議決裂からずっとこの2国が核問題で先鋭に対立し、かつこの両国のみが当事者能力を持っているからである。3日間に亘る協議の冒頭、まず米国は北朝鮮の核問題の歴史に詳細に言及しながら「1994年の米朝枠組み合意は機能していない」として、北朝鮮に対し「完全かつ再開不可能な形」での核廃棄を求める原則的な立場を表明。これに対し北朝鮮は「敵視政策の転換」を要求、米国に「法的拘束力のある不可侵条約の締結」を求め、協議が不調に終われば「核抑止力をさらに強化する」と威嚇した。その後行われた米朝二国間協議でも丁々発止の駆け引きが延々続いたが、結局両国は歩み寄るに至らず今回の協議を終えた。
米朝駆け引きの焦点はこうである。北朝鮮は(1)米国との不可侵条約締結 (2)米国に加え、日韓両国なども含む多国間支援の実現 (3)中止の方針が決まっている軽水炉建設工事の継続・完成ーーなどを要求してきた。そしてこの一連の条件が実現した場合に限って、核兵器開発断念、国際原子力機関(IAEA)による査察の受け入れ、ミサイル開発・輸出の中止にも応じ、かつ核開発放棄とこれら条件履行が同時進行されることを強く求めた。所謂「段階的、同時並行的解決」案である。
これに対し米国は、核開発放棄と支援の並行実施は前回の北朝鮮核危機の際の解決策だった米朝枠組み合意(94年)と同様の方式だが、北朝鮮がこの合意を一方的に破棄し核開発を再開した以上、今回は飽く迄北朝鮮の核開発放棄が先決で、それが実現した場合に限って支援を行う方針を対置した。つまり北朝鮮は「不可侵条約締結が先」と言い募り、一方米国は「核放棄が先」と従来の原則的主張を一歩も譲らず真っ向から対立を繰り返したのである。そのため結局、米朝の主張は何処までも平行線を辿り、ホスト国・中国が協議継続の合意などを柱とした6項目の議長総括を口頭で発表し閉幕した。
この議長総括は「北朝鮮の安全への配慮」や「段階的、同時並行的解決」など北朝鮮の立場へ配慮する一方、「事態をエスカレートさせる言行を取らない」など北朝鮮の核実験やミサイル開発の脅しをも牽制、玉虫色の修辞に終始しており、対話継続には道筋がついたものの次回開催時期すら明示していない。つまり鳴り物入りで始まった6カ国協議だが、何らの成果もなかったのである。
2 前進なき日朝協議
一方6カ国協議初参加となった日本も基調演説で、「北朝鮮の核兵器開発・保有・移転は絶対に容認できない」と強調、核とミサイル、拉致問題の「包括的な解決」が重要だとの基本的立場を表明。特に日本喫緊の懸案である拉致問題では「拉致問題は国交正常化の前に解決されなければならない」と主張。北朝鮮が見返りを要求しているへの経済協力についても「国交正常化があって初めて実施する」という原則的立場を述べた。
これには米国が全面的支持を表明したこと勿論である。その後日朝2国間協議に移り、日本側は改めて拉致被害者5人の家族の帰国と、北朝鮮が死亡や行方不明と発表した10人について安否確認などを求めた。これに対し北朝鮮側は最初、「5人をいったん北朝鮮に戻すとの約束を破った」という従来通りの主張を繰り返し、協議は物別れに終わる。
だが29日の3回目の協議になって北朝鮮は「日朝間には日朝平壌宣言というしっかりした基礎がある」と強調したうえで、「拉致問題を含め一つ一つ解決していきたい」と言明。 これに対し日本側は平壌宣言を履行する考えに変わりはないと明言したうえで、「拉致被害者家族の帰国は人道上の問題として、早期解決が図れるよう北朝鮮側の前向きな対応を求めたい」と強く要求した。更に日本側が日朝協議継続を提案したのに対し、北朝鮮側も「そのようにしたい」と応じた。つまり一夜にして北朝鮮側は丸で逆の反応を示した訳だが、当然のこととして様々な憶測が流れた。一つは”変身”説である。
これまで北朝鮮は「拉致問題提起は6カ国協議を妨げる日本の企図」と言い募り、拉致問題の提起自体に反発して来た。それが拉致問題で日本と計3回にわたって接触、「日朝平壌宣言に則って問題を一つ一つ解決していく」と軟化した。6カ国協議を通じての日米連携の強固さに非難と恫喝の従来的手法では日本の譲歩は得られないと判断し、金正日の直接の指示を仰いだ結果昨年の日朝平壌宣言の線に帰ったというものである。
もう一つは”分断”説である。強硬で一切妥協しようとしない米国を切り崩すため、6カ国の中で最も弱い日本に狙いをすませまず拉致問題を餌に強固な日米同盟の結束を分断する挙に出て来たというものである。いずれにしろ昨年の日朝平壌宣言で金正日自ら拉致を認め謝罪しながら、今に至ってもなお“人質外交”を展開しようとしているのである。この間マスコミや民間活動団体を通じ、“肉親の情”を利用しての揺さぶりもあった。
北朝鮮の本質は何も変わらず、拉致問題の解決はその糸口すら見出せなかったのである。
3 先鋭化する米朝対立
ところが6カ国協議が終わった途端、北朝鮮は協議からの脱退を示唆し始めた。30日、北朝鮮外務省スポークスマンは六カ国協議に関する談話を発表、「自衛的措置として核抑止力を引き続き強化する以外に選択の余地がなくなったことをより確信した」と述べ、今後も核開発を継続する方針を示した。同時に、「米国は朝鮮半島の非核化を目標とした一括妥協による同時並行の原則を全面否定した」と非難し、「今回の協議は、われわれの期待とは異なり卓上の空論に過ぎず、われわれを完全武装解除させようとしていたことが確認された」とも述べている。
6カ国協議に参加した北朝鮮代表団も北京を去るにあたって空港で、「協議には興味も期待も持てない」という捨て科白も残している。更に今月の3日、この日から開催された最高人民会議では6カ国協議で米国が敵視政策を転換しなかったとして、「核抑止力の維持」を明言した北朝鮮外務省の一連の措置の承認を採択し、更に措置にともなう「当該の諸対策」をとることをも決定した。「当該の諸対策」の内容には触れていないが、6カ国協議の際に行われた米朝2国間協議で北朝鮮は「核抑止力」として核保有宣言、核実験、ミサイル実験の3つを挙げ、協議後の外務省スポークスマン談話などでも同様の趣旨を述べているから、「当該の諸対策」とはこうした強硬政策を示唆しているものとみられる。
一方米国でも、6カ国協議は北朝鮮のこれまでの強硬姿勢を何ら変えられなかった点で明らかに失敗だったとする見方が噴出し始めた。例えばブッシュ政権の朝鮮政策を支持するウォールストリート・ジャーナル紙は社説で「更なる北朝鮮の脅威」と題し、「先週の6カ国協議の予期された外交的失敗は軍事行動に反対する側に代案を示す責任を課した」と論評。ブッシュ政権に反対するカーター元大統領さえもUSA TODAY紙への寄稿で、6カ国協議の失敗により「米国・北朝鮮戦争が強い可能性となった」と論じている。
ブッシュ政権は今のところ北朝鮮核問題の「外交的、平和的解決」という路線を公式には揺るがせていないが、政権高官たちは一部の米紙に「この結果北朝鮮は孤立を深め、同協議の前よりも不利な立場に追いこまれた」とか「北朝鮮は自らの墓穴を掘った」と語り、中国や韓国も北朝鮮の威嚇姿勢に不満を深めたという見方を強調しているという。米国は今中東のイラクとパレスチナで難渋を極めており、直ちに北朝鮮に対して軍事オプションを取り得る態勢にはない。しかしブッシュはイラン、イラクと並んで北朝鮮を「悪の枢軸」と断罪し、既にイラクのフセインを軍事的に打倒しているのである。
北朝鮮が外交手段だけでは核放棄に応じないならば、軍事力行使さえ視野に入れ始めていることは疑いないであろう。実りなき6カ国協議の結果、米朝の対立は更に一層先鋭化し始めたのである。<
4 対話政策放棄し核武装へ
ここで今一度、朝鮮半島を巡る各国の利害関係を見ておこう。まず米国は、北朝鮮を「悪の枢軸」と名指し北朝鮮の核武装を絶対阻止する決意である。同時テロで明らかになった通り、「ならず者国家」の核兵器・大量破壊兵器の所有と拡散は米国自体の安全を直接脅威に晒すからである。そのため当面外交的解決を目指しながら、究極の場合軍事力の行使さえも視野に入れている。
次に中国は、北朝鮮の核武装が日本、韓国そして台湾の核武装へとドミノ化することを最も恐れている。台湾の核武装は建国の国是である台湾統一の決定的障害となるだけでなく、世界第二の経済大国日本が核武装に踏み切れば忽ち強大な軍事大国と化しアジアの盟主たる地位が根底から覆滅するからである。そのくせ将来の米中対決を視座に入れて朝鮮半島への米国の勢力拡大を恐れて、そのため必死に北朝鮮を庇護している。
今日まで北朝鮮が崩壊しないで金正日が永らえているのは、一にかかって中国がコメと石油を援助しているからに他ならない。落ち目のロシアの利害は、急膨張する中国を牽制するためかつて維持した朝鮮半島でのプレゼンスの復権であることは言う迄もない。一方我が国はどうか。無辜の民を拉致されその家族を人質に取られ、テポドンで脅され核兵器で安全が危殆に瀕している挙げ句、「補償」と称して莫大な金品を巻き上げられようとしているのである。
今度の協議で例のあの田中某らの金正日扈従一派が排除され、毅然として「包括的解決」の原則的立場を貫く様になったのは慶賀とすべきである。だが万景峰号の新潟入港を今も公然認めている様に、対北朝鮮政策が究極のところ「対話」なのか「圧力」なのか全く判然としないのである。これでは金正日に付け入られるのも当然と言うだけでなく、同盟国=米国にとっても迷惑千万という他ないであろう。
結局全ての問題は、政府の惰弱と弱腰に帰着するのである。では、その惰弱と弱腰は何に由来するのか?
言う迄もなくそれは戦後日本の国是とも言うべき「小日本主義」である。そしてその「小日本主義」の根幹を為すものこそ「平和憲法」で、その更に核心を形成するものこそ「非核三原則」に他ならない。核は今現在も世界最強最大の兵器であり、かつポリテカル・バーニングとしても最強の外交資源である。
世界第二の経済大国日本でありかつ次の世界を牽引する世界史的世界国家でありながらしかし、核無きが故に米国に扈従せざるを得ず、核無きが故に中国に土下座し、そして核無きが故に破綻国家北朝鮮にまで右往左往せざるを得ないのである。既に米国は日本の核武装を容認している。懸念しているのは中国のみである。
ならば北朝鮮が核を弄んでいる今こそ、「非核三原則」を放棄し核武装化にむかって国策の根本を確立すべき時なのである。世界史的世界国家へ飛躍するためにもである。
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