前々から国内歴史家の議論を聞いていて、不思議でならなかったのは、世界で一番古い憲法は日本の十七条憲法。マグナカルタはそれから七世紀後である。メソポタミア文明のハンムラビ法典は商法であり、憲法の嚆矢とは言いにくい。
つまり日本は世界史で一番古い民主国家ではなかったのか、という「疑問」だった。
『源氏物語』は世界初めての長編恋愛小説である。フランスの心理描写の小説は十七世紀、十八世紀である。それは文化大国の証拠である。
いまでも世界中で『源氏物語』は読まれ続けている。
ああそれなのに、なぜ日本の民主政治の成熟が遅れていて、文学はローカルで世界的ではないなんて欧米のやぶにらみをまともな批判と誤認し、多くの日本人は萎縮しているのか?
これは明治文明開化いらいの悪しき文明的コンプレックスの後遺症か、それともGHQの占領政策の洗脳がまだ効き目をもっているからだろうか?
評者(宮崎)は随分と前から、日本は世界最初の民主国家であり、世界でもっとも古い文明国であろうと考えてきた。
一時は夢中になったトインビーも読んだが、途中で「日本文明は中国の支流」と書いてあって失望、もっとも博士一人で全世界の歴史を閲覧したのだから、見落とし、誤解もあるのだろうが。
本書は第一に日本人の自信回復への処方箋の役割を果たしている。
(やはりそうか。そうだったのか)。
本書では体系的に時系列的に、縄文土器から仁徳天皇陵、源氏物語に奈良の大仏など、世界史の金メダルを50項目並べて、一挙に解説を加え、日本人を鼓舞する悠々たるたくらみである。
世界最大級の木造建築だった出雲大社、世界最初のオーケストラは、雅楽。そして世界最古の国歌は君が代、世界最長の王朝は、もちろん万世一系の天皇。
どの項目も簡潔な解説で、それぞれの専門家が分担して書いている(執筆総勢15名)。
だが、半分以上は田中氏が担当し、淡々と日本のすごさを物語るのである。
いつくも興味をそそられる記述があるが、たとえば仁徳天皇陵。
http://www.city.sakai.osaka.jp/kofun/database/nintoku.html
堺市にある。地元選出の西村真悟代議士は、よくここを散歩するそうである。うかつにも評者は、まだ見学したことがない(もっとも内部へは入れませんが。。。)。
http://www.city.sakai.osaka.jp/hakubutu/ninhya.html
(詳しいデータはここに ↑)
つまり仁徳天皇陵は、ギザのピラミッドなど問題にしない広大な面積。秦の始皇帝陵墓よりも規模が大きい。
世界一の陵墓なのに、世界遺産になっていない不思議さ。
奈良の大仏は中学の修学旅行で見てから、何回か、奈良へ行くたびに見に行った。
三十五年ほど前に、作曲家の黛敏郎氏が、「奈良の大仏開眼は、当時の万博。世界から貴賓を招待しての一大イベントだった」と指摘され(黛『君が代はなせ歌われない』、浪漫刊、絶版。ちなみにこの本は小生が編集した)、それなら当時から日本は世界一の経済大国でもあり文化大国でもあったのか、と感動したのだった。
本書でも、大仏開眼の儀式が詳しく描かれているが世界各国から一万数千人が、奈良の都に集まったというではないか。
西欧が古さを誇るパルテノンは“死んだ宮殿”である。タリバンが破壊したバーミャンの石窟は、岩崖をくりぬいた彫刻の古さはあるにせよ、奈良大仏のようにブロンズではない。
中国自慢の龍門石窟も石壁を掘ったに過ぎない。
ところが奈良の大仏はブロンズなのである。文明大国の証でもある。いまも年間数百万の参詣がある。
世界最古の木造建築は法隆寺。世界最古のミュージアムは正倉院。
世界最古にして最大の和歌集は『万葉集』。
この本を読むとなんだかモリモリと元気が出てくる。不況のいま、この本を読んで日本人は自信を回復しなければならない。
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